くまてつ@日本語教師です。
みんなの日本語の第36課で「ように」の使い方を学習します。
この「ように」は便利な表現で、日常生活で良く使われますが、日本語学習者にはとっても難しい表現です。
なぜなら「意志動詞」と「無意志動詞」という、日本語母語者が意識せずに使い分けている2種類の動詞に関して理解することが求められるからです。
というわけで、今回も学習内容をしっかりまとめていきたいと思います。
第36課の学習内容のまとめ
第36課ではこのような内容を学習します。
すべての用例に「ように」が含まれていますね。
ではそれぞれの用法についてまとめますね。
無意志動詞と意志動詞の違いは?
「意志の力でどうにかなるかどうか」が鍵
簡単に説明しますと、文の主体(主語)が意志の力で状況や動作をコントロールできるのであれば「意志動詞」。
どうにもならないのであれば「無意志動詞」となります。
ですから、食べます・飲みます などは主体の意志によって行われる事柄ですので「意志動詞」です。
しかし「怯えます」など感情を表す動詞は「無意志動詞」です。
なぜなら怯えようと思って怯えたわけではないからです。
さらに自然現象なども人間の意志ではどうにもならないので「無意志動詞」です。
雨よ降れ!と命令することができても、実際に降らす力はありません。
それで「降ります」も無意志動詞ですね。
詳しいことは「無意志動詞と意志動詞に関する解説」にて説明したいと思います。
36課を理解するために「無意志動詞」と「意志動詞」を区別することが必要
「〜ように、〜」や「〜ようになりました」などの文型を学習する際に、教師は「無意志動詞」とは何かきちんと整理しておくことが大切です。
日本語教師の母語が日本語の場合、意識せずに使い分けていますので、学習者にわかるように説明できないと問題が生じます。
でもここだけの話ですが・・・
わたしは36課を教えるときには「無意志動詞」について教えないことにしています。
中国語版の教科書には「無意志動詞」に関する記述があるので、まじめで几帳面な生徒には質問されることもありますが、その時ですら「無意志動詞」と「意志動詞」という分類があるけどあまり気にしなくても良いよとだけ説明します。
どうしてかと言いいますと、説明しても生徒が混乱するだけのことが多いからです。
でも教師は「先生」ですので説明しないにしても説明できないとまずいと思います。
V辞書形+ないように、〜。(目的)の使い方
例文)速く泳げるように、毎日練習しています。
この文型に関して、いろいろな説明の仕方があるのですが・・・
簡単に言いますと、前節で述べたことが実現すべき理想的な状況、つまり目的で、それを達成するための行動を後節で述べています。
この例文の場合、
前節の「速く泳げるように」の部分が目的です。
そして、後節の「毎日練習しています」が目的達成のために行っていることを指します。
画像で説明している通りですが、「ように」の前には「無意志動詞」がきます。
動詞の「泳ぎます」は意志動詞ですが「泳げます」は無意志動詞です。
動詞の可能形はすべて「無意志動詞」だと覚えておきましょう。
加えて、前節と後節の主体が同じ場合もあれば、違う場合もあります。
最初に提示した例文の場合、速く泳げるようになるのも、練習するのも「自分」です。
しかし二つ目の例文の場合はどうでしょう。
外国人にもわかるように、ゆっくりと話しましょう。
前節の主体は「外国人」ですが、後節のゆっくりと話すのは「外国人」とは限りません。
この言葉を聞いた人々です。
当たり前といえば当たり前ですが、前節で述べたことが実現するように、後節で述べることを行うという意味ですので、主体が同じだろうが異なっていようが関係ないわけです。
「ように」の前は「努力目標」後ろに来るのは「その目標」のために行っていること。
この組み合わせをしっかりと教えましょう。
中国語ですと「ように」は「为了」です。
加えて文型も比較的に似ていますので、学習しやすいと思います。
Vない形+ないように、…。(目的)の使い方
例)遅刻しないように、早く起きます。
「V辞書形+ように、… 」と同じスタイルですが「Vない形+ないように、…」の場合は、前節で述べた理想的とは言えない状況が生じないように行っていることを、後節で説明しています。
例文の場合「遅刻する」という事態を避けたいので、「早起き」していることを言っている訳です。
いつも繰り返していますが、重要な部分は述語で、この例文の場合は「起きます」の部分です。
「Vない形+ないように、…」も「V辞書形+ように、…」と同様に前節と後節の主体が同じ場合もあれば、違う場合もあります。
前節と後節の主体が同じ場合
例)遅刻しないように、早く起きます。
遅刻しないのも、早く起きるのも、話し手である「自分」です。
前節と後節の主題が同じではない場合
彼がこれ以上太らないように、ラーメンは禁止とした。
太らないのは彼ですが、禁止にしたのは話し手です。
この文を「これ以上太らないように、ラーメンを禁止にした」とすれば、前節も後節も主体は「話し手」である自分となります。
主体がどっちなのかわからなくなってしまうことも
彼がこれ以上太らないように、ラーメンは禁止とした。
この文ですと、前節の主体が「彼」後節の主体は「話し手」とすぐにわかります。
これ以上太らないように、ラーメンは禁止とした。
こうなると、前節の主体も「話し手」だろうと判断できますが、文脈や雰囲気から判断に悩むこともあり得ます。
例えば話し手が痩せていて、かれの夫、もしくは妻が太っていることを知っていた場合、誰のラーメンが禁止されたのかわからないこともあり得ます。
「〜ようにします」と「〜ないようにします」について
「太らないように、ダイエットします」という文の、後節を簡単にして「太らないようにします」とも言えます。
もちろん「N+します」だけではなく、通常の動詞でも同様に簡単にできます。
例)遅刻しないように、早起きします。
例)遅刻しないようにします。
目的だけを強調する場合は、「ように」の後に直接「します」を接続します。
方法は言わないけど、自分のしたいこと、したくないことを説明することができます。
V辞書形+ようになりました。(能力)の使い方
「ようになる」のそもそもの意味は?
それまで存在しなかった状態が現在は存在するということを表します。(出典:スリーエーネットワーク 初級を教える人のための日本語文法ガイドブックp75)
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「ようになる」を使うと、以前はできなかったが、今はできるようになったことを説明できます。
この「できるようになる」というのがくせ者で、能力が向上してできるようになった場合と、環境が変化してできるようになった場合にわけることができます。
まずは「能力」が向上した場合を考えましょう。
例)やっと自転車に乗れるようになりました。
つまり、以前は自転車に乗ることができなかったのですが、なんらかの理由により、今は以前とは違って自転車に乗ることができるということを説明しているわけです。
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可能形の普通形に関して
当たり前ですが、可能形の動詞には「丁寧形」と「普通形」があります。
例えば例文で取り上げた「乗ります」という動詞を例にとって説明します。この「乗ります」は動詞のます形ですよね。これを可能形に変化させると「乗れます」となります。
そしてさらに辞書形へと変化させます。「乗ります」は「ます」の前の音が「り」で1類動詞ですが、「乗れます」は「ます」の前の音が「れ」で2類動詞となります。
というわけで「乗れます」の辞書形は「のれる」となります。
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副詞を組み合わせて、表現力のアップを目指す!
「やっと」や「かなり」「ほとんど」を組み合わせることで、ニュアンスを変えることができます。
「やっと自転車に乗れるようになりました」と言えば、ずっと頑張ってきたんだなとか、時間がかかったのかなと聞き手は思います。
また「やっと」がないと、練習が大変だったというニュアンスを伝えることができません。
「かなり」を付けるとどうでしょう?
かなり乗れるようになりました。
十分に運転できるだけの技術を身につけているけれども、完璧ではないという意味を伝えることができます。ただできるようになったと言うよりも、柔らかい印象を与えます。
ただ単に「乗れるようになった」と言うのとでは、伝わり方が違いますので、副詞の使い方は大事ですね。
V辞書形+ようになりましたか。いいえ、まだ〜ません。の使い方
以前できなかったことが、今できるようになったかどうかを尋ねる方法です。
例)自転車に乗れるようになりましたか。
当然ですが、こういった質問ができるのは、聞き手が以前は自転車に乗ることができなかったことを知っている人だけです。
過去の状況について知らないのであれば、当然「自転車に乗れますか」と尋ねるはずです。
しかし話し手は聞き手が状況を変化させようとしていたことを知っているので「乗れるようになったか」と尋ねることができるわけです。
では、これに対してどう答えるべきでしょうか?
Q: 自転車に乗れるようになりましたか。
A(Y): はい、乗れるようになりました。
A(N):いいえ、まだ乗れません。
このようになります。
「いいえ、乗れません」と答えるのは不自然なので、学習者が違いを理解できるように教えましょう。
程度の副詞を使いこなして状況をより詳しく説明できると、ほぼ完璧です。
自転車に乗れるようになりましたか。
いいえ。でも少しだけなら乗れるようになりました。
このように、まったく乗ることができないのではなく、少しだけできることを説明できるといいですね。
次は状況が変化してできるようになった場合について考えましょう。
V辞書形+ようになりました。(状況可能)の使い方
同じ文型で「能力」の変化だけではなく、「状況」が変化して、以前はできなかったことが今ではできるようになったことを説明できます。
例)だれでもテレビが買えるようになりました。
自分が経済的に豊かになって、以前買えなかったものが買えるようになったという意味ではなくて、社会の変化により、大抵の人がテレビを買える時代になったことを説明しています。
別に当人の能力が向上したから買えるようになった訳でない場合もこうやって説明できるわけです。
どうやって練習すればいい?
「昔は〜だった」でも「今は〜ようになった」という作文問題などを用いて練習できます。
結構盛り上がるので、楽しいですよ。
先生が思いがけないネタを仕込んでおくのもよさそうです。
「V辞書形+ようになります」に関する注意点
「V辞書形+ようになります」の「ように」の前にくる動詞は?
「V辞書形+ようになります」の「ように」の前にくる動詞は、能力や可能の意味を含む物がくることが一般的です。そういった動詞には「聞こえます」「見えます」「わかります」などがあります。
加えて「腐る」「慣れる」「治る」「直る」「溶ける」など変化を表す動詞は「ようになる」の前に来ることができません。なぜなら動詞そのものが変化という概念を伝えているからです。
例)夏になって野菜が腐るようになった。(不自然)
例)夏になって野菜が腐りやすくなった。(自然)
「なります」の前に動詞以外の品詞が来ることはありますか?
もちろん、動詞でなくても「なります」の前に来ることができます。
すでに「みんなの日本語 初級19課」で学習済みです。ですからここでしっかり復習しておきましょう。
- 娘は背が高くなりました。
- 娘は元気になりました。
- 娘は大学生になりました。
- 娘は中国語が話せるようになりました。
上から順に説明します。
イ形容詞の「高い」は「高く」とすれば「なります」に接続できます。
ナ形容詞の「元気な」は、ナを削除して「元気に」とすれば、なりますに接続できます。
さらに名詞の「大学生」も「に」をつけてそのまま「なります」に接続可能です。
動詞の場合は「話せます」の辞書形「話せる」に「ように」を接続し、そのまま「なります」とつなげます。
「なります」は変化を示す動詞なんですね。
V辞書形+ようにしています。(習慣的・継続的な努力)の使い方
ある事柄を習慣的、継続的に行う努力をしていることを述べる文型です。
この「ようになります」の前にくる動詞は「意志的動詞」となります。
努力は意図的なものですから、無意志動詞がくると不自然な文となってしまいます。
例)毎日、ジョギングをするようにしています。
例)野菜を食べるようにしています。
当然ですが、これは自分の決定により行っていることです。
もし誰かに強制されているのであれば、次のような文になります。
例)毎日、ジョギングをすることになっています。
例)野菜を食べることになっています。
この「ことになっている」は「ことに決まった」と置き換えられます。
例)毎日、ジョギングをすることに決まった。
自分個人の意見ではなく、外部、もしくは所属する団体で決定したというニュアンスが伝わってきますね。
Vない形+ないようにしています。(習慣的・継続的な努力)の使い方
ある事柄を習慣的、継続的に行わないように注意していることを述べる文型です。「ないようにしています」の前にくる動詞も「意志的動詞」となります。
例)冷たい水を飲まないようにしています。
自分の意志で飲まないと決め、その後もずっとそう努力しているという意味を伝えます。
Vない形+ないようにしてください。(丁寧なお願い)の使い方
相手に継続的な注意や努力が必要なことを知らせる時に用いる文型です。
「ないようにしてください」の前には「意志的動詞」も「無意志的動詞」もくることができるので要注意です。
みんなの日本語の例文も「意志動詞」と「無意志動詞」使っています。
例)もっと野菜を食べるようにしてください。(意志的)
例)ビールを飲まないようにしてください。(意志的)
例)時間に遅れないようにしてください。(無意志的)
例)荷物を忘れないようにしてください。(無意志的)
この「〜ようにしてください」は一度限りのお願いや注意ではなくて、継続的な努力が必要な状況を相手に要求する言い方です。
それで一度きりのお願いや、その場で応じる必要のある事柄に、この文型を使うことができません。
すみませんが、醤油をとってください。
この「Vて形+ください」の言い方に不自然さはありません。
でも次のように言ったらどうでしょう?
すいませんが、醤油をとるようにしてください。
不自然です。
つまり「V辞書形+ようにしてください」では、その場で行うような依頼をすることができないってことです。
もっと継続的な努力が求められるようなことを言うときに使います。
例えば・・・
これからは極力、醤油を使わないようにしてください。
こういうと、塩分を控えるために、継続的に醤油を控えめにつかうべきですよと注意できます。
形容詞で形容詞や動詞を修飾する方法
形容詞は名詞を修飾できます。
では形容詞で形容詞や動詞を修飾したい場合もあります。
その場合には「イ形容詞」の「い」を「く」に、ナ形容詞の「な」を「に」に変更すれば問題解決です。
例)早く上手に日本語が話せるようになりたいです。
「早い」を「早く」とすれば、また「上手な」を「上手に」とすれば「話せるようになりたい」を修飾することができます。
くまてつ的まとめ:みんなの日本語 第36課 は結構難しい!
動詞の種別はいろいろあるけど「意志・無意志動詞」の区別は微妙
自動詞とか他動詞とか、瞬間動詞とか継続動詞とか、さまざまな動詞の分類法がありますが、意志動詞・無意志動詞の比較はわかりにくさの上でトップクラスだと思います。
初級クラスでは、媒介語なしでは説明不能のように思うので基本的には説明しませんが、うっかりすると自分も混乱してきます。
というわけで、変なことを言ってしまわないように細心の注意を払って教えることが求められますね。
でも本当に難関なのは「第37課」の受け身です。
詳しいことは「みんなの日本語 第37課 まとめ」で説明します。
くまてつでした。
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