日本語教師のくまてつです。
先日「Vます形+たいです」の目的語の助詞が「が」と「を」のどちらでも良いという問題」という記事を書きました。
結論から言いますと、わたしは初級であれば・・・
「ほしいです」に続く場合は「Nがほしい」
「Vます形+たいです」に続く場合は「NをVます形たいです」に統一した方がストレスが少なくなると思っています。
どちらでも大丈夫ですよっていうのが、教師にとっても学習者にとっても結構なストレスになるからです。
この記事を同僚の中国人の日本語教師に読んでもらったところ、結構な論争となりましたので、話し合いの結果をここにまとめておきます。
同僚の中国人日本語教師の意見は「動詞重視」と「形容詞重視」の違い
Emma先生のコメントをそのまま引用します。
ちなみにEmma先生はN1を取得しており、日本語での会話は非常にスムーズでしていつも驚かされます。
先生のコメントはこのようなものでした。
私はこれを教えるとき、
[動詞ます形+たい]は[動詞]と[形容詞変化のたい]から来ているので、動詞の性質を尊重する場合は[を]になります。
形容詞の性質を尊重する場合は[が]になるように説明しています。
結局どちらでもいいことになってしまっていますが……
どちらでもいいのですが、動詞の性質と形容詞の性質を尊重するかで決めると説明しています。
でも、この品詞の性質を尊重するっていうのがどうもわかりません。
JUJU先生のコメントもそのまま引用します。
「私はビールを飲みたいです。」なら、「私はビールを飲み/たいです」というようになりますが、
「私はビールが飲みたいです」なら、「私はビールが/飲みたいです」というようになる気がします。
これは難しい。
JUJU先生の追加説明はこのようなものです。
つまり、1番目の文はビールを飲むことをもっと望んでいます。2番目の文はビールをもっと望んでいます。
なるほど、今読み返してみると、なんとなく理解できてきましたが、
つまり「ヲ」を伴う「飲みたい」の場合は「ビールを飲む」という行為をしたいという意味で、
「ガ」を伴う「飲みたい」の場合は「ビール」を欲しているということになりそうです。
先生たちの結論は、話し手がなにを重視しているかによる
この例文の場合、
話し手が「ビール」を欲しているのか、「ビールを飲むこと」を欲しているのかで「ガ」と「ヲ」を使い分けているというのが先生たちの意見です。
しかし、この例文で言う「ビール」を欲しているとは、つまりビールを飲むということなので、結局の所は同じ意味となります。
それでEmma先生も「結局は同じなんですけど」という結論になっているわけです。
言葉が違うのなら厳密に言えば意味も違うし、用法も違う
とはいえ助詞が違うのですから、全く同じというのはあり得ない
もし100%同じであるのなら、言葉を使い分ける必要はないので、この例文の「ガ」と「ヲ」が違うというのも、まったく同じとは言い切れません。
ここまで中国人の先生たちと話してきて、お二人の共通点は「形容詞的な性質を重視」しているか「動詞的な性質を重視」しているかにより、助詞の使い方が決まるというものでした。
それで動詞を修飾する副詞と、形容詞を修飾する副詞の例文を作って比較してみました。
もう少し説明すると、頻度などを表す副詞は「動詞の性質」を修飾しますし、願望の強さを修飾するものは「形容詞の性質」を修飾します。
それぞれの例文を作って助詞を比較して見ました。
動詞の性質を修飾する副詞を使った例文
- たくさん ビールを 飲みたいです。
- たくさん ビールが 飲みたいです。
- ビールを 10杯 飲みたいです。
- ビールが 10杯 飲みたいです。
個人的には、この場合、助詞は「ヲ」の方がしっくりくるように思います。
形容詞の性質を修飾する副詞を使った例文
- 絶対に ビールを 飲みたいです。
- 絶対に ビールが 飲みたいです。
- 本当に ビールを 飲みたいの?
- 本当に ビールが 飲みたいの?
こうなると助詞は「ガ」を選んだ方がしっくりくると思います。
続「Vます形+たいです」の目的語の助詞が「が」と「を」のどちらでも良いという問題の結論
意味としては、どちらを選んでも構わない
「ビールを 飲みたいです」も「ビールが 飲みたいです」も同じことを言っています。
ですから基本的に助詞はどちらを選んでも良いと思います。
副詞を伴う場合には、使い分けが必要
しかし文の情報量が増えてきた場合には、助詞を調整する必要がありそうです。
頻度など、行為に関係する副詞を伴う場合には「ヲ」を用います。
ビールを 10杯 飲みたいです。
願望の強弱を示す副詞を伴う場合には「ガ」を用います。
本当に ビールが 飲みたいの?
ただ、検証が少ないのですべての場合でそうなのかとは言い切れませんが、初級のレベルを教えるには十分な情報と思います。
まとめ:話し合うって本当に大事
日本人の日本語教師と、外国語が母語の日本語教師が一緒にいるって理想的かも
今回はEmma先生とJUJU先生、そしてSophie先生と一緒にこの問題を話し合うことができました。
自分一人ではここまでの結論に達することができなかったと思います。
今までは単純に「どちらでもいいよ」とか「面倒くさいからヲでいこう」なんてやっていましたが、ちょっと反省です。
説明しないまでも、もっと深い理由をしっており、教えるかどうかは調整するのが正しいのでしょうね。
これからも他の先生と一緒に教える技術の向上を目指して頑張ります。
くまてつでした。