くまてつ@日本語教師です。
日本語の受け身表現はとっても面倒くさいです。
単に人から受けた行為を表すこともあれば、迷惑だと感じた行為も表すこともあります。
いずれにしても「話し手」の主観が非常に重要です。
加えて会議やオリンピックなどのイベント、さらには芸術や建築物に関しても受け身表現で説明するのが普通です。
学習者が混乱しがちな受け身表現ですので、まずは教師の側がしっかりと理解し、一緒に泥沼に沈むことがないようにしていきましょう。
受身動詞
ここで問題になるのが「受身動詞」という表現方法です。
みんなの日本語 中国語版はきちんと「被动动词」という言葉を使っていますが、練習Aの動詞変化の一覧表では単に「受身」と書いています。
ここまでで「テ形」とか「ナイ形」など動詞の変化について学習してきましたので、ここでも「受身形」と言いたいところですが、「受身動詞」か「受身」と述べた方がいいです。
なぜなら「受身動詞」は「マス形動詞」と同様に、非過去・過去・肯定・否定へと変化することができるからです。ですから「受身」は動詞の変化後の形状ではなく、丁寧形での動詞の種類です。
ほかにも可能動詞や使役動詞も、可能形や使役形と言わない方が無難です。わたしは授業では「可能動詞」「使役動詞」と言うようにしています。
受身動詞の作り方
1類動詞の場合
マス形よりの変化で説明しますと
「ます」の前の「イ段」の音を「ア段」に変えて「れます」を追加します。
飲みます(NOMI MASU)→ 飲まれます(NOMA REMASU)
当然ですが受身動詞は普通形にも変化できます。
飲む(NOMU)→ 飲まれる(NOMA RERU)
日本語母語者は通常意識せずに使い分けていますから、気をつけなければいけませんね。
2類動詞の場合
マス形よりの変化で説明しますと
「ます」を「られます」に変えれば完了です。
食べます(TABE MASU)→ 食べられます(TABE RAREMASU)
当然ですが受身動詞は普通形にも変化できます。
食べる(TABERU)→食べられる(TABE RARERU)
3類動詞の場合
毎度のことながら「します」と「きます」しかありませんので、暗記してしまいましょう。
「丁寧形の場合」
します(SHIMASU)→ されます(SAREMASU)
きます(KIMASU)→ こられます(KORAREMASU)
「普通形の場合」
する(SURU)→ される(SARERU)
くる(KURU)→ こられる(KORARERU)
単純な受身表現に関して(直接受身)
N1とN2が存在していて、N2がN1に対して何かを行ったことを、N1の立場から表現する方法を直接受身と言います。
すごくわかりにくいので、例文で説明します。
上司がわたしを叱りました。
この例文の場合、行動したのは「上司」です。
そして叱るという行為の受け手は「わたし」です。
先ほどのN1、N2の記号に当てはめて考えると、N1は「わたし」でN2は「上司」となります。
ではこの例文を叱責の対象となったN1(わたし)目線で説明するとどうなるのでしょうか?
わたしは 上司に 叱られました。
先ほどの例文「上司がわたしを叱りました。」は「上司」を基準に説明をしています。
これに対して「わたしは 上司に 叱られました。」は「わたし」を基準としています。
受け身文の作り方
能動文から受け身文へ変更する際に気をつけるのは3カ所です。
まず助詞の「は」の前にくる「主題」が「上司」から「わたし」に変わります。
次に述語の「叱りました」は「叱られました」となります。これは受身動詞へ変化したからです。
最後に叱られた対象であった「わたしを」の部分を、叱った人である「上司に」と変えます。
助詞の「を」は目的語の「を」ですが、受け身文では目的語は主題となっており、元々の動作主であった「上司」の後には行動の起点の「に」もしくは「から」が入ります。
ですから次のような例文も成り立ちます。
わたしは 上司に 叱られました。
わたしは 上司から 叱られました。
ただみんなの日本語では「から」を使った例文はありませんので、わざわざ「に」以外の助詞に言及しなくてもよいかもしれません。
受け身文の練習方法に関して
まずは動詞の変化を完璧にできるように助けた方がよさそうです。
どんな方法でもよいですが、学生が動詞からすぐに受身動詞へ変換できるようにカードなどを使うこともおすすめです。
自分の所有物がだれかに何かをされたときは「間接受身」を使う
ここまでで勉強してきたのは、直接なにかをされたことを説明する直接受身文です。
しかし日本語には、自分の体の一部や、持ち物が誰かから何かをされたことを説明する間接受身という表現方法があります。またその文は往々にして「人から何かをされて迷惑だった」という話し手の感情を伝えます。もちろん全部の間接受身文が迷惑だったという気持ちを伝えるわけではありません。しかし一般に面倒を感じたときに受身表現を使います。
では「間接受身」について考えていきましょう。
間接受身の作り方
N2がN1の所有物や体の一部に対して何かを行った結果、N1が迷惑に感じていることを示す文系の場合、次のような構文となります。
N1は N2 に N3を 受身V。
N1は迷惑を感じているその人のことです。
N2は迷惑をかけた人のことです。
そしてN3は迷惑を被ったN1の所有物のことです。この所有物はN1の体の一部を含みます。
わたしは 弟に ケーキを食べられました。
弟は 犬に ケーキを食べられました。
わたしは 電車で 足を 踏まれました。
主語であるN1はもちろん「わたし」である必要はありません。他の人が被った迷惑を代弁することができます。
さらに3番目の例文の「足」は、言うまでもなくこれは「わたしの足」です。
自分の足が踏まれたことを客観的に言っているのではなくて、痛い!もしくは気分が悪いってことを言いたいわけです。
ありがちな誤用
もういちど例文を確認してください。
わたしは 電車で 足を 踏まれました。
もう少し説明を加えた例文にしてみます。
わたしは 電車で 女の人に 足を踏まれました。
すでに説明したとおり、この受身文は「迷惑」を表す文です。
それで主語は「わたし」となります。
述語は「踏まれました」ですけれど、本当に言いたいことは「踏まれた」という事実ではなくて、「踏まれた」ことを不愉快に思っているってことです。
それで主語は「足」ではなくて「わたし」となります。
よく見る誤用の例は・・・
わたしの足は 女に人に 踏まれた。
この例文も言いたいことはわかりますが、不自然な日本語ですね。
自分の足が踏まれておきながら、自分のこととは思っていないような雰囲気を出しています。
この例文を能動文にするとこうなります。
女の人が わたしの足を 踏みました。
ここで注意してほしいのは目的語である「わたしの足」です。
日本語ではこのような文を受身形へ変化させる場合、所有者である「わたし」を主語に、そして所有物である「足」はそのまま目的語としておきます。
このルールに合わない「わたしの足は 女に人に 踏まれた。」は誤用だというわけです。
誰かからしてもらったことを「迷惑だ」と思わない場合。
人からされたことをすべて迷惑だと思う人がいれば、その人はかわいそうな人ですね。
わたしは 肩を押された。
この例文の場合、だれかに肩を突き飛ばしたような印象を受けます。
でも次の例文の場合はどうでしょう?
わたしは 女の人に 肩を押してもらった。
この例文ですと、肩を優しくマッサージしてくれる女性を思い浮かべるに違いありません。
それで「相手に感謝している」場合には「受身動詞」ではなくて「動詞テ形+もらう」を使うべきです。
結果にのみ注意して「行動した人」を重視しない受身文
例えば金閣寺など歴史的建造物は素晴らしいモノですが、実際に誰が作ったかはわかりませんし、通常気にしません。そうそう、金閣を作らせたのは足利義満ですね。
こういう建築物を建てた時期を述べる際にも受身文を使います。
1)1397年に金閣寺を建てました。
2)金閣寺は1397年に建てられました。
例文1は、言葉が足りないように感じます。
もし「足利義政が1397年に金閣を建てた」と言えばしっくりきます。
それに対してだれが建てたかではなく建造年に注意を向けたいときは、受身文にすることにより自然と行動した人ではなく、時期に注意を向けさせることができます。
同様に発明や美術品についても説明可能です。
電話は19世紀に発明された。
ハリーポッターは世界中で読まれています。
2020年に東京でオリンピックが開かれます。
これらの例文の共通点はなんでしょう?
それは発明した人、読者、また開催することを決定した人やスタッフに注目しているのではなく、事実に注目していると言うことです。
こういう場合も受身文を使用します。
人々の生活スタイルや習慣、もしくは引き続く行われていることを説明する受身文
中国の北方では麺が、南方では米がよく食べられています。
広東省では広東語が話されています。
日本の車は世界中に輸出されています。
これらの例文の共通点は、大勢の人々の行動に注意を向けている点です。
この用法も建築物や美術品などを言う場合と同じく、行動している人々に注意を向けていないという点です。
材料や原料を説明する方法
材料も原料もともに何かを作るときに使う資材のことを指します。
しかし微妙な違いがあります。
材料とは?
できあがったものをみて、何を使ったが理解できる場合、その資材を材料といいます。
竹竿や家の柱、紙コップ(紙)などをみれば、それぞれ「竹」「木」「紙」で作られたとことがすぐにわかります。
それらの資材のことを「材料」といいます。
原料とは?
できあがったものをみて、何を使ったがわからない場合、その資材を原料といいます。
例えば、パンの原料は「小麦」ビールの原料は「麦」です。
日本酒の原料は「米」です。
どれもできあがったものを観察しても、なにから作られているかよくわからないものばかりです。
そういった資材のことを「原料」といいます。
材料は「で」、原料は「から」を用いる。
この家の柱は 木で 作られました。(材料)
このビールは 北海道産の麦から 作られました。(原料)
助詞の微妙な使い分けですが、意味に違いがありますので間違えないようにしましょう。
位置を示す言葉
「うえ」「した」「ひだり」「みぎ」「となり」「ちかく」など位置を示す言葉の前に「この」「その」「あの」などの指示語をつないで、位置情報を伝えることができます。これは「名詞+の+位置を表す名詞」の用法と同じです。
ソファーの上に猫がいます。
どこに猫がいるの?
あの上にいますよ。
場所を表す言葉は結構難しいので、しっかり教えるようにしましょう。
日本語教師のくまてつでした。