くまてつ@日本語教師です。
みんなの日本語 第5課では、移動に関係する動詞の使い方を勉強します。
この移動に関係する動詞文には様々な要素を組み込むことができるので、格助詞の働きを勉強し、まとめるには 最適な課と言えると思います。
それと助詞の「へ」と「に」の言い間違いに気をつけることも大事です。
今は目的地をしめすのに「へ」も「に」も使いますが、教科書では「へ」に統一されています。
わたしも油断すると「昨日スーパーに行ったんだよね」なんて生徒に言って、生徒から「先生!スーパーへですよ」なんて指摘されたりしています。気をつけなくてはいけません。
では、第5課を概観したいと思います。
移動に関する動詞「行きます」「来ます」「帰ります」の基本的な使い方
移動には目的地がある。助詞の「へ」(目的地)の使い方
最近では目的地を指す助詞に「に」を使う場合もありますが、ここでは「へ」に統一しましょう。
でも生徒の学習目標に応じて柔軟に対応してもいいと思います。
例えば日本語能力試験を目標にしているなら「へ」と教え、日本への旅行の準備のため、または仕事で必要などの場合には「へ」でも「に」でも同じ意味だと教えています。
試験対策なら、どちらでもいいという教え方は理想的ではないですね。
完全に否定する方法
まずは例文を確認します。
どこも 行きません。
だれも 来ませんでした。
なにも 食べませんでした。
このように疑問詞の後ろに「も」をつけて、その後「否定文」とすれば、完全に否定する内容となります。
中国語でも同様の文法がありますから、これは理解しやすいはずなんですが、結構「も」を見落とします。
なにもしたくないです。
疑問詞+も と来れば否定文というのを徹底しましょう。
助詞の「で」の使い方(移動手段)
「で」は使い勝手のよい助詞ですが、これもなぜか結構間違えます。
また、第5課では移動手段としての「で」だけを勉強しますが、すぐにコミュニケーション手段としての言語の「で」、道具の「で」、行動する場所の「で」なども出てきます。
おそらく中国語母語者が「で」を間違いやすい理由は、中国語と日本語の考え方の違いがあるのではと思います。
中国語での例を取り上げてみます。
我坐公交车去北京。
我开车去北京。
それぞれ「バイク」「バス」「車」で北京へ行きますという意味です。
でも、乗り物により行動が変わります。
バイクの場合は「騎」バスの場合は「座」車の場合は「開」という漢字を用います。つまり、乗り物により話し手のとる行動が変わるのでことばも変わるわけです。
でも日本語の場合はすべて「で」で表現します。
日本語と中国語が似ているなと思う部分もあります。
ただ、歩いて行くとなると「で」は使いません。
誤)北京へ歩いで行きました。
この場合、自分の足が移動手段なのですが「歩く」という動詞のテ形を用いて話し手の動作を強調しています。
中国語ではこうなります。
厳密に訳すと道を歩いて北京へ行ったとなりますね。
このように母語の特徴をつかむと教えるのが楽になりますよ。
助詞の「と」の使い方(中国語の跟と同じ用法)
一緒に行動する人やモノをしめす助詞の「と」です。
ネコと北京へ行きました。
愛車と北京へ行きました。
人でも動物でも、場合によってはモノも一緒に行動できますから、助詞の「と」を使って状況を詳しく説明できます。これは中国語の「跟」と同じ使い方なので、理解しやすいです。
我跟猫一起去北京。
ただ、モノと一緒にという言い方は一種の比喩なので、ここでは説明しない方が良いと思います。
愛車に乗って北京へ行きました。
移動に関連する作文例
みんなの日本語 初級 第5課までで勉強したことをすべて使うと、次のような文を作れます。
助詞を使いこなせるようになると、表現の幅が広がります。
使った助詞は「主語(主題)の は」「説明の の」「一緒に行動するの と」「移動手段の で」「目的地の へ」です。
疑問詞「いつ」の使い方
何年・何月・何日・何時・何分・何秒
よく小学生のころ、早口で「何年・何月・何日・何時・何分・何秒」と言ったりしていましたが、最近の子どもたちも言うのでしょうか?
時間をしめす数量詞の前に「なん」をつけることで疑問詞として使えることを第4課で勉強しましたが、ここでは「いつ」という疑問詞を勉強します。
これは中国語の「几年 几月 几日 星期几 几点 几分 几秒」と同じ使い方ですし、いつも「什么时候」という疑問詞があり、意味も日本語と同じです。
終助詞「よ」と「そうですね」の使い方
終助詞はやはり難しい
感情を表す終助詞についてすでに第4課にて「ね」を勉強しました。
「ね」が確認、同意の気持ちを表す、「よ」は相手に何かを教えるとき、もしくは自分の判断を言うときにつかうという説明で生徒はことばの意味を理解できますが、使い方まで習得するのは難しいです。
これはまずは意味をしる。そして習うより慣れろの気持ちで取り組むしかなさそうです。
ことばの違いは文化の違いなので、判断・意見など日本語と中国語共通の漢字で表されることばですら、細かなニュアンスは異なっていることもあります。
要注意です。
「そうですね」って結構使います
相手にどうしていることをしめすのに使う表現です。
言い方一つで意味が大きく変わるので、生徒と練習した方がよいです。
そっけない「そうですね」から、相手の手を握りしめつつ言う「そうですね」もあり、同意や賛同の気持ちの強弱を表現できます。
日本語も難しいです。
みんなの日本語 初級 第5課の特徴
うっかり「自動詞」とか「他動詞」とかいうと失敗する。
移動に関する動詞は自動詞で目的語を伴いません。
言い換えれば助詞の「を」を使わない動詞文となります。
英語を勉強していたり、自分で勉強する習慣のある生徒のなかにはここで「行きます」は自動詞ですかと尋ねる生徒もいます。
わたしは簡単にそうです。とだけ答えるようにしています。
なぜかというと、自動詞だと言うと英語と同じだと判断してしまったりする生徒もおり、のちのち調整が面倒くさくなることがあるからです。
自動詞だからではなく、こういう日本語の文法だと理解するように強調した方がいいと思います。
格助詞とは言わないけれど、助詞の役割を意識させる
助詞が述語と助詞の前にくる名詞の関係を説明する役割を持っていることを教えると、後が楽になります。
言い換えれば助詞の選択を間違えると、その前にくる名詞がどんな役割を持っているのかわからなくなるわけです。
この例文の場合、名詞は「わたし」「去年」「8月」「友人」「車」「北京」となり、それぞれ述語の「行きました」とどういう関係があるかを訪ねます。
生徒は「主語(主題)」「時期」「時期」「一緒に行動する人」「移動手段」「目的地」と答えられれば後は簡単です。それぞれの「は」「に」「に」「と」「で」「へ」という助詞を選ぶように教えます。
ただここでは「去年」「8月」という二つの時期が出てきており、しかも「去年」のあとには助詞の「に」は来ることができません。それで「の」を使って二つの名詞をセットにしてしまうという工夫が必要であることに気づかせます。
ここまでできれば上出来です。
ちなみに一般に格助詞がついた名詞は文中のどこにでもおくことができますが、最初に「主語」そして最後に「述語」を置くのがルールです。
わたしは 友人と 去年の8月に 車で 北京へ 行きました。
わたしは 車で 去年の8月に 友人と 北京へ 行きました。
わたしは 北京へ 去年の8月に 友人と 車で 行きました。
順序を変えることでニュアンスは変わりますが、意味は変わりません。
日本語は面白いですね。
くまてつでした。